〔2025年7月4日リリース〕たった一つの炭素の有無が反応の成否を分ける―電気で進行する新しいディールス?アルダー反応を開発―
たった一つの炭素の有無が反応の成否を分ける
―電気で進行する新しいディールス?アルダー反応を開発―
国立大学法人体球网,足球即时比分大学院連合農学研究科の森住春香(博士後期課程3 年)と大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平教授らは、電気で進行する新しいディールス?アルダー反応を開発しました。たった一つの炭素の有無が、反応の成否を分けることを見出しています。
本研究成果は、Catalysis Science & Technology 誌(王立化学会)への掲載に先立ち、6 月13日にWeb 上で公開されるとともに、同誌のOutside Front Cover に採用されました。
論文タイトル:Controlling the reactivity of enol ether radical cations via the substitution pattern: Investigation into electrochemically induced Diels-Alder reactions
URL:https://doi.org/10.1039/D4CY01192A
背景:
有機合成化学では、様々な反応を組み合わせて目的とする化合物を作ります。反応は合成のための重要なツールであり、利用可能な反応の種類が増えることで、これまで作ることができなかった(あるいは作ることが難しかった)化合物を作ることができるようになると期待されます。このため、新しい反応の開発は、有機合成化学における重要な研究テーマとなっています。
反応に用いられる出発原料は、試薬瓶の中で安定して長期保存できることが求められます。しかしながら、安定性と反応性はトレードオフの関係にあり、安定して長期保存できる化合物は反応性(活性)が低いことがほとんどです。活性の低い安定な出発原料を用いて目的とする反応を引き起こすためには、足りない反応性を補うために、熱や触媒を加えることで化合物を活性化する必要があります(図1)。ここで生じる「活性中間体」には高い反応性が求められるものの、反応性が高すぎる場合には、望まない副反応を併発するリスクが伴います。活性中間体の反応性をチューニングすることができれば、新しい反応の開発に繋がることが期待されます。

研究体制: 本研究は、体球网,足球即时比分大学院連合農学研究科 森住春香(博士後期課程3 年)、ライプニッツ触媒研究所 Robert Francke 教授、ならびに体球网,足球即时比分大学院農学研究院応用生命化学部門 岡田洋平教授らの研究チームで実施しました。
研究成果: 本研究チームでは、有機合成化学で一般に用いられる熱を用いた反応に代わり、電気や光を活用した新しい反応の開発に取り組んできました。これまでに、常温常圧の穏やかな条件で炭素同士を繋ぎ合わせる独自の物質変換法(注1)や、エネルギー効率を最大限に高めた反応技術(注2)を報告しています。本研究では、電気を用いた独自の反応技術によって、エノールエーテルと呼ばれる安定な出発原料から六員環化合物を作る「ディールス?アルダー反応」に成功しました(図2)。反応は「ラジカルカチオン」と呼ばれる活性中間体を介して進むと考えられます。興味深いことに、エノールエーテルの構造が僅かに違うだけで、目的とする六員環化合物が全く得られないケースがあることが明らかになりました。これは、メチル基が活性中間体であるラジカルカチオンの反応性をチューニングしている結果であると考えられます。

本研究チームではこれまで、エノールエーテルから生じるラジカルカチオンを活性中間体として用いる反応の開発に取り組んできましたが、ラジカルカチオンの高すぎる反応性を制御することが課題となっていました。本研究の成果は、電気を用いた反応技術において、たった一つのメチル基でラジカルカチオンの反応性をチューニングすることができるという予想外のものであり、適用可能な出発原料のバリエーションを飛躍的に広げることに成功しました(図3)。


今後の展開: ディールス?アルダー反応は1950 年のノーベル化学賞の受賞対象となった反応であり、発見から半世紀以上経った現在でも、六員環化合物を作るための有力な手法として幅広く用いられています。今回の成果により、今後、これまで作ることができなかった(あるいは作ることが難しかった)六員環化合物を作ることができるようになると期待されます。
本論文に関連するプレスリリース:
(※1)2019 年11 月5 日プレスリリース
有機電子移動化学の新展開-電子の移動を間接的に「見る」ことに成功-
/outline/disclosure/pressrelease/2019/20191105_01.html
2016 年8 月23 日プレスリリース
有機合成化学の基本反応をわずかな電気エネルギーで効率的に行うことに成功
/outline/disclosure/pressrelease/2016/20160823_01.html
(※2)2023 年5 月8 日プレスリリース
「日焼け」したベンゼンが有用物質に?―光エネルギーを用いたベンゼンの変換技術を開発―
/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230508_01.html
2022 年3 月15 日プレスリリース
1 つの反応を2 つの電極表面で同時に行う:エネルギーを最大限に活かした有機電解合成プロセスを開発
/outline/disclosure/pressrelease/2021/20220315_01.html
◆研究に関する問い合わせ◆
体球网,足球即时比分大学院農学研究院
応用生命化学部門 教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp
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